名前のない道〜TOUR DE TSUMARI

越後妻有――。信濃川流域に広がるこの地域では、3年ごとに「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」が開催されている。
その関連企画として、2006年から毎年行われているのがサイクリングイベント「ツール・ド・妻有」だ。
地域に点在するアート作品と集落をつなぎながら、600人を超える参加者が黄色のジャージを身にまとい、夏の里山を駆け抜ける。
それはまるで、風景と人と作品をつなぐ「動く彫刻」とも呼べる光景である。

この企画の原点は、伊藤 嘉朗がかつて「自転車」をテーマに企画したひとつのワークショップに遡る。
舞台は、新潟県十日町の「鉢」という集落。
この土地での出会いとやりとりがきっかけとなり、後の「ツール・ド・妻有」へと発展していく。
イベント当日、参加者は各地から十日町に集まり、集落の人々の手料理でもてなされ、沿道からは老若男女の声援が飛ぶ。
この日だけ生まれる、一日限りのコミュニティ。
アートツーリズムの参加者と、それを迎える地域の人々とのあいだに、あたたかな交流が育まれる。

「ツール・ド・妻有」は、単なるアートイベントやスポーツイベントではない。
人と人、人と風景、外からの視点と内にある日常が交差する場として、地域の年中行事のように親しまれつつある。

本映像では、参加者や地域の人々の姿を追いながら、十日町の四季折々の里山の風景と、そこに根づく暮らしの断片を記録している。
サイクルイベントという「移動の視点」を通して浮かび上がる、地域のあり方と時間の積層。
その一日と、その土地の持つ力を、あらためて見つめ直すための映像作品となった。

Director: 泉山 朗土
Camera: 仁田原 力/ 泉山 朗土/ 川口 健作/ 粕谷 幸司/ 加藤 文崇
Editor:泉山 朗土
Music:一ノ瀬 響
Producer: 伊藤 嘉朗・相澤 久美/
製作:silent voice